春のよる
あぁ、しあわせだった。
隣にあのひとがいた。
ぜんぜん実感がなくて、だけど時計だけは気になる日だった。
何度も何度も見ては、本当にきょうなんだよね、って
自分にきいてみた。
ひさしぶりなのに、隣に滑り込むように座ってくれた瞬間、
もうそれが心地よくて、胸の奥がつかまれるようなぎゅっとされるようなひりひりが広がっていく。
まっくらな公園。
自動販売機のランプが交互に点滅する。
空にはいくつもの星。降ってきそうな田舎の夜空。
今日が来るまで天気予報をずっと気にしてた。
あなたもわたしも同じように、金曜日の傘マークが消えて雲のマークになってそれがさらに月のかたちに変わるのを別々の場所でみていたことが嬉しかった。
時計も見ず、何度も何度も鳴るあなたの仕事用の携帯電話もいつだか振動に変わったあとに聞こえなくなった。
手を繋ぐとじーんとする。
手のつめたいの、ぜんぜん変わってないね、ってあなたが言う。
しずかな夜。
夜はぜんぶ隠してくれて、ぜんぶお見通し。
1年と8か月、すぐ飛び越えてしまうから体温てすごい。
生きてるって、会えるって、素直になれるって、
どうしてこんなにぐちゃぐちゃのようでまっすぐなのか。
なかなか顔が見られない。
でもすごくしあわせ。笑いあって、質問とこたえを繰り返しあって、しんとした静寂がもくもくと包みにやってくる。
10年というながい間憧れてはいとおしんで親しんだ手が、わたしの肩をやさしい速度でいだく。
目をやると星空とあなた。
髪を撫でてくれる。
やわらかいキスが降りてくる。
触れられるということ、触れたいとおもうこと、
いったいどこから指令が出てるのかわからない。
ただ、わたしのこころがいつも探しているのは、会いたがっているのは、気にかけているのは、語りかけているのは、
あなたしかいないということ。
運転しながら片手をつなぐ。
ありがとう、ってぎゅっと力を込めてくれるあなたのやさしさと葛藤とわたしのそれが混ざって本能になる。
おやすみ、忘れ物ないように、いいかけたわたしに
あなたはもう一度だけ
ポケットに入れて
また毎日をいきるよ。